幻 早くあなたに会いたい

♪シャッフルにして▶︎、自転車に乗って川沿いを帰って行く。時計を見ると七時五分、あ八百屋、閉まったな、と思っていると、▶︎東京は夜の七時が偶然かかる。お、と一瞬だけにゃっとして、あとは真面目にイェーイェーフゥフゥつぶやくように歌って帰る。四月、春なのに二十五度を越えていこうとするような泣きそうだった日。七、八、七、一、四、二十五。

 

さて、夢と変わらぬ一週間。

人が出てきて、梅雨の前の一番いい季節に、控えめな気持ちで、でも確かに街を覆う人の気配が。

 

この季節の東京の十二年分の記憶が蘇る十三度目のいま、再生されるのは数々の夜の散歩。虫みたいにコンビニエンスストアに寄った。二十三時、店の電子レンジで十秒ばかり温めたふにゃふにゃのまずそうなハンバーガーを食べる人の横顔を見たこととか、とんでもない余韻の中で缶ビールのパッケージを眺めていたら終電がなくなったこととか、視力矯正をせずに知らない道を歩いて見たずっと並ぶ電灯の滲んでいたこととか、今日もまた同じように思い返されるけど、初めて、幻みたいなこんな日々で、ああ、もう、いいのかもしれないなあ、と、思った。いいのかも。幻みたいで、暗くない気持ちで、十三度目の梅雨の前の東京で、むしろ悪くない気分で、変なハイで、ムーンリバーを渡るような、ステ、ップ、で。また友だちに会いたかったな、とも、でも信じている約束もないけどな、とも、そうしたつまらない寂しさはやめて本当に寂しい、とも、誰にも会いたくない、とも、でもやはりイェーイェーフゥフゥ歌いながら。矛盾に殺されそうである。

 

冬のあとの春の失われたあとの 春のような初夏の ひかえめな矛盾を抱えた人々の明るい体に呼ばれて殺されそうなときの 邂逅の幻のあと さてどんな雨の季節でしょう。紫陽花が灯るように咲き始めていますが、今年は白山神社の紫陽花祭りはあるでしょうか? ないようですが行きたいです。