日記、何も起きない

目が覚めて、また寝て、あたたかい布、布、布団にくるまれて、包まれたまま覚めていて、漫画を読んだり反芻したりしながら、くるまれていた。

 

死者の書を読んでいた。

 

布団に顔をうずめて、グイッ、グイッと擦って、また潜って、出てきて香箱座りのようにして、顔をうずめて、擦って、とやってやっと起きたあと、死者の書を読んでいた。

 

これはじっ、とりじめっ、と地層深く、民族、歴史、ことば、発音、季節、気候、神さま、仏様、うた、音、嗚呼、あまりにも、あまりにもあまりにも、含んでいて、読み進めるのが大変な文章ですが、今日はずっと読んでいた。

 

家は笑っちゃうくらい冷えるけど、厚着して、毛布にくるまって、温風のでる機械の前で座って、ひたすら読んだ。

 

意味がわからない言葉や、はじめての音があれば裏紙に書いて、眺めて。

 

なも 阿弥陀 ほとけ あなとうと 阿弥陀 ほとけ

 

昼には豚汁。熟して甘くて、あたたかくておいしい。

 

昼を過ぎて、夕になって、真っ暗で本にだけ明かりを当てて死者の書を読んでいた。

 

うつくしい、静かだ、ことばのリズムが蛇のごとく逃げていく、にょろっとした、した、した、水が、火が、光が、こんなにも閉じ込められた文章、いつか書写したい。この文を書写したい、と幾人もが思うのがとてもよくわかった。

 

静かな日だった。

静かな日が、ずっと続くように。

 

何もしていない。

読むのに時間がかかるからそれ以外に何もしていないことは至極当然だと思う、けど、それでもまだなにかを生めるだろうか。

 

春になったら、この部屋にはあたたかくて間抜けな風が吹くんじゃないかな、と期待を込めて思った。