夏は人を思って缶ビールもって遠くまで歩きたい。(秋と春もそうしたい。)

 ほんの小さい頃に、お兄ちゃんと冒険に出た。遠足用のナップザックに、水筒、買い置きしてあったお父さん用の辛いアラレ、筆箱、落書き帳を詰めて家を出た。お兄ちゃんのナップザックは、彼が家庭科の授業で縫ったやつで、綿入りのキルトのそれが羨ましかった。デカい目のネズミ風のキャラクターが描いてあった。ナムコの。いつでも、先を行く兄のものは良さそうに見えた。「家庭科の授業」は四年生から始まるから、わたしはまだカテーカの授業を知らなかった。でもカテーカの授業で作ったものだということは知っていた。

 その日は両親どちらも不在で、それで冒険に出ることにしたんだった。それまでにも留守番をすることは何度かあったけど、そういう時は大抵、兄がゲームをするのを見ているだけだった。冒険は彼の気まぐれだった。わたしはマザー2を見ているのが好きだった。マザー2は今でも大好きだ。

 半袖だった。だから、夏休みだったんじゃないかと思う。そう思うと、蝉が鳴いていたような気がする。家を出て、ドラクエ式に列をなして歩いた。何かを話すわけでもなく、珍しく喧嘩もせず、黙々と歩いた。わたしはドラクエの棺が嫌いだった。そういえばゲームオーバーも大嫌いだった。

 いつもは車で連れて行ってもらうツルミの堤防まで歩いたところで、そうと意識すると急にこわくなった。一人きりじゃ来たことがないところ、と思うとすごくこわかった。あの頃の時間の感じ方は今ではもう元に戻らないもののひとつだけど、たぶん、45分くらい歩いたんだと思う。こわくてこわくて、もうかえろう、と兄に泣いて頼んだ。兄はまだ歩けた。彼はまだ歩けた。そこを、もれそうだから帰ろう、と嘘をついた。そしたら彼は残念そうに水筒の麦茶を飲んだんだった。アラレも筆箱も落書き帳も使わないままだった。わたしはぜんぜん喉が渇いていなかったけど、真似して麦茶をのんだんだった。

 

遠くに行くのがこわかった。

 

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明日は録音をする。

遠くへ、遠く、遠く、遠くへと歌う曲を書いた。

ばかだなあ、といまは思う。ずーーーーー!!、!、、!っと。遠くに行きたいって小さな頃から思っていたはずなのに、行かないようにしていた。棺もゲームオーバーも本当はたいしてこわくないよ。

 

あした録音だから今日はお酒止めとこ、と思っていたけど、幾つか重ねてしまった。

わくわくしている。

遠くに行く曲。

6時間歩きたい。