Re: ただの記録に

2月23日(土)

起きて、起きたのかな、あまり覚えていないけど、たぶん起きて、雑事をこなしたあとで、吉祥寺に行こうかなと思って外に出た。寒さの底は先週か先々週に過ぎたようで、芯を冷やすような空気ではない。総武線のホームで、西へ向かう電車と東へ向かう電車が同時に入ってきて、一瞬迷った末に、やはり御茶ノ水に行くことにした。三省堂書店東京堂書店をゆっくり見て回り、小説がほしい気もしたけど買わずに出た。大型書店のレジ待ちの列はいつも長蛇だ。

ミロンガを覗くも、土日の昼間はいつも満席に近い。ミロンガをやめて上島珈琲店石牟礼道子『苦界浄土』を読んだ。買ったのはたぶん2年くらい前で、たまにちょっとずつ読んでいる本。記録と詩と小説がないまぜになったみたいな本。店を出るとき、出口付近に高校の同級生によく似た人が座っていた(直木賞の彼)。人違いかもしれないから声はかけないでおいた。

千代田線に乗って、以前住んでいた街へ。少しだけ歩いた。やはりとてもいい街でとても寂しくなった。なぜわたしは今ここに住んでいないんだろう、と路地を歩きながら思った。死との距離が近いのに、同じく死との距離が近い田舎のような寂しさはない。東京は張りぼてだから、人間や死を感じなくてもそれなりに進んでいけるが、あの街の路地はちょっとちがう。印象。

一駅歩く。アイルランドからの友人夫妻を迎えて、大衆酒場へ。ビール、お酒、にごり酒。直美とはダブリンで出会って、欧州10か国を一緒に回った。もうあまり昔の話はしないけれど、人ふたりの中にめまぐるしいあの共通の景色が流れている。直美は主に、マシューに日本の何を食べさせるかということを考えていた。穴子、どじょう、うどなどつまむ。あとは、ニュージーランドのうなぎの話とか、ダブリン市内にある怪しい「中華料理カラオケ店」の話とか。何が面白いわけでもないけれど、ふたりの英語を聞いていると、すんごく楽しい気持ちになった! 言葉の発音に、明らかに別の土地を感じた。言葉を発することで生じる、内面の些細だが重大な変化に気がつく。波紋。

もう一軒、と、以前何度か行ったバーに。アイリッシュウイスキー。二人は、ジャパニーズジン。キノティーというジンを一口もらう。お茶を使ったジンとのこと。めちゃくちゃ美味しかった。

二人とハグして別れる。

二人はこれからニュージーランドに住む。